円天の顛末(さわり)

西部です。

最近,政府通貨とか円天とかに絡んで,地域通貨のことをあれこれ言っている人がいるようです。

江頭さんがメールをくれたんで,以下のようにそれに答えてみました。
その後,以下のようなことも考えました。話の種にでもなればと思い,投稿します。

円天は正確には複数回流通するものでなく,一回使われるとお店は換金しておしまいなので,地域通貨とは言えません。商品券なりプリペイドカードとおなじ前払証票ではありますけど,複数回流通させる意図が全くないわけですから。

円天と円とは全く異なる通貨であり,価値尺度としても異なるということを前提にして,プレミアムを毎年100%などという法外なものではなく,初めに一度20%ぐらいにして,そのかわり減価通貨と組み合わせて時間とともに減価していくようにすれば,うまく流通すると思います。「うまく」というのは,円天のように爆発的に発行額は増えないでしょうけど,そこそこ増加しつつ消費を刺激するということです。

今回,円天は,手品のネタとして地域通貨を利用したわけですけど,円とは違う通貨であるというところに,単なるだましのネタ以上の実質的な意味,つまり違法性を消去するという意味があるのかもしれません。

毎年預託してある円貨と同じだけの円天を「配当する」と言っても,「円」ではない「円天」での配当ですから,法律上は「配当」や「利子」と見なされないかもしれません。(多分,円による前払証票の継続的購買とみなされる。)もしそうであれば,出資法違反とも言えなくなるというわけです。その点で法律の網の目をまんまとかいくぐった可能性もあります。波和ニ会長は逮捕されないと豪語されていたようなので,その点を予め考えていたのかもしれません。意図的,計画的だったならば,これは確信犯的なすばらしい手口です。

当初,検察側は出資法違反容疑で家宅捜索したのだけれど,今回の逮捕は出資法違反ではなく,組織犯罪処罰法違反(組織的詐欺)容疑ということです。これだけ時間がかかったということを考えると,出資法違反の立件については検討の末諦めたということなのかもしれないですね。出資法は「不特定多数の者から払い戻すことを約束して金銭を集めることの禁止」を謳っています。L&Gは出資額100%相当の円天を毎年支払い,最終的に出資額を円で払い戻すとしているので,これだけ聞くと,元本保証の出資だから出資法違反と言いたいところですが,何せ配当は「円天」なのだから,以上のような行為は「払い戻すことを約束して金銭を集める」ことになっていないことですかね。結局,この行為自体を「出資」と規定するのは難しいということでしょうか。

他方,ネズミ講やマルチ商法などいわゆる無限連鎖講の場合,無限連鎖講の防止に関する法律があって,無限連鎖講を「終局において破綻すべき性質のもの」と捉え,法律で禁止したわけですけど,これも該当しないというのが検察の判断なのでしょうか。円の出資金が無限に増えるのではないからネズミ講ではないと主張されるとうまくいかないということなのでしょうかね。

で,最終的に,組織犯罪処罰法違反(組織的詐欺)容疑での逮捕と相成ったのでしょう。配当されるものが円ではなく円天であるというところに,出資法や無限連鎖講の防止法をすり抜ける鍵があるとすれば,これは,意外に奥深い問題を提起しているわけです。

江頭さん
こんにちは

> 最近,円天の事件にからんで,ネット検索をしていたら,
> http://stroller.blog.eonet.jp/stroller/2007/10/post-fe08.html
> というサイトを見つけました。地域経済の専門化らしいのですが,
> どうも地域通貨に対する誤解があるのではないか,と思います。
> そもそも,日本円を地域通貨に直接交換するという話をあまり
> 聞いたことがないのですが。基本的には,物の売買の中で
> 生じる債権と債務が地域通貨の形で記録されるのだと思ってい
> ます。

今多くの地域通貨(と称するもの)が法的には商品券(前払い式証票)として 運営しています。われわれがネットワークを調査研究した苫前町地域通貨も地 域商品券です。だから,円で地域通貨をプレミアム(苫前では2%)付きで買 うことができるのです。そして,何回か回って,最後に商店街の店主や業者が 換金することもできます(苫前では換金手数料は1%)。だから,法的にはこ うした地域通貨と円天に違いはないです。「物の売買の中で生じる債権と債務 が地域通貨の形で記録される」というのは,本来の地域通貨であるLETSはそう ですが,ここ数年は地域通貨特区における規制緩和(前払証票発行に関する預 託金の免除)もあり,こういうタイプの地域通貨が普及してきたのです。ま あ。本来の地域通貨から考えれば,邪道なのですが,こうしたものは例の地域 振興券等の頃から考えられていたわけで,特に商店街や市町村がこの種のもの をやったのです。札幌商工会議所が2年前にやったクラークコインもこれですよ。

http://www.sapporo-cci.or.jp/clark/

> したがって,「保有する円以上の地域通貨が発行」などという
> ことが問題となるとは思えないのですが。

まあ,円天の問題は地域通貨的な電子マネーポイントであると言うところには なくて,それがネズミ講(ポンティ金融)とセットになって行われたと言うところにあるのです。要するに,預けてある円貨分,毎年円転がもらえ使えるとするような仕組みが問題なのです。そんなもの参加者がねずみ算式に増えない 限り,いつか破綻するに決まっていますから。

> 加えて言うと,地域通貨ので,このような詐欺事件がおきた例
> などがあるのでしょうか?

商品券型地域通貨の場合,換金できなくなったなどの詐欺事件まがいのことが 起きたというのは今のところ聞いたところがありません。円天が初めてです ね。

> いずれにしろ,円天のような事件があり,こういう批判が出てくると
> 地域通貨自体がやりにくくなるし,公的な機関の支援も得られにくく
> なりますね。

え〜と,一般に誤解があるように思うのは(それを広げようという悪意を持っている人もいるようですが,これぐらい理解してほしい),地域通貨や電子マ ネーの仕組み自体が悪いのではないということです。

ネズミ講が違法であるということが問題なのに,人がそのことを理解しない で,地域通貨を批判するのが間違っているのです。別に地域通貨を使わなくて もネズミ講はできるし,これまでも行われているのですよ。地域通貨がネズミ 講に利用されやすいなんてこともないはずです。商品券型地域通貨でも,前払 式証票に関するプリペイドカード法があるので,本来は発行額の半分を円で金 融機関に預けなければならないので,ネズミ講まがいのことはできないように 規制されているのですから。地域通貨を語りNPOを作って,地域通貨特区の 規制緩和メリット(供託金を置かなくていいという)を受けていたというなら 大問題ですが,そういうことではありませんし。円天はネズミ講式に違法に過 剰発行され流通して破綻した,ただそれだけです。単に,無から無限に購買力 (お金)が生み出せるかのような錯覚を起こさせるたマジックのネタとして 「地域通貨」的仕組みが利用されたというだけです。

前にそんなことを書いた「円天の顛末」なる文章を書きかけていたんですけど。いまは進化経済学入門の方が先ですね。