プレビュー用に「悟(さとり)コイン」を送っていただきました。これはビットコインのイメージコインではなく,0.001Bitcoinを内蔵するフィジカル・コインです。
http://cryptocurrencymagazine.com/physical-bitcoin-satoricoin
直径約4センチ,ガジノコインのような外形ですが,目を引くのは表面の緻密なデザインといくつかの言葉。中心にオレンジの光を放つ「B」があり,その上の赤青の御幣のような図形の中に「悟」―仏ならぬビットコインにより開かれる悟りの意だとのこと―の文字が描かれています。外側には,オーストリア学派を創始した経済学者カール・メンガーの主著『経済学原理』の一節’Value does not exist outside the consciousness of man’とイギリスの政治家ディズレーリの格言「誠実にまされる知恵なし」が刻まれています。裏面にはホログラムの上にシリアル番号と0.001Bが印刷されています。
1ビットコインが現在351ドルですから,0.001BTCは約40円。シリアル番号に割り振られた公開鍵を以下のビットコインブロックチェーンで検索すれば,0.001 BTCの価値があることが確認できます。
実は裏面のホログラムはシールになっており,その中に秘密鍵が印字されています。公開鍵と秘密鍵を使えば,ビットコインを第三者に送信できます。製造元の㈱来夢によれば,「ビットコインの新規取得に関わるハードルを極力まで下げ,誰にでも悟りを開くことを可能に」する広報宣伝ツールだとのこと。
しかし,ホログラムシールを一度剥がしてしまうと秘密鍵が丸見えになり,ビットコインを他人に盗まれてしまうリスクが生じますし,外見の美しさも損なわれるので,0.001BTC取得のために剥がそうとする人はかえって少ないかもしれません。
実は,ホログラムシールが付いたままの悟コインは,ビットコインのリアルなコイン化を文字通り実現するものです。というのも,受領者がホログラムの裏に秘密鍵が記載されていると信じる限り,悟コインは0.001BTCと同等のモノとして認識されるので,ビットコイン本位の兌換通貨として流通するからです。
もちろん,それは,ホログラムの裏に秘密鍵が記載されていないという詐欺が起こらないということ,すなわち,製造元が誠実であることを信じ続けることができる限りにおいてです。ディズレーリの格言がここに関係します。今後,㈱来夢は0.01BTCないし0.1BTCが封印される悟コインも製造販売するようです。不換紙幣であるがゆえにいくらでも増発できる日銀券とビットコインに兌換可能な悟コイン,はたしてどちらが「良い貨幣」なのでしょうか。
私は1990年代後半より地域通貨の研究・実践に関わってきて,5年程前ある記事でビットコインのことを知りました。その時,ビットコインは,国家通貨への批判を込めた民間通貨,デジタル・コミュニティ通貨として普及するであろうと予想しました。いまJ.P.モルガンやゴールドマンサックス等の大手投資銀行は金融決済にブロックチェーン技術のみを利用することで,ビットコインを換骨奪胎しようとしています。悟コインがビットコインのもう一つの現実を創り出してくれることに期待します。